「あ゛ー…、もう、頭痛い」
まるで屍のようにフローリングを覆い尽くす良く見知った人間の数々。
それを踏まない様に細心の注意を払いながら、同じくテーブルに散乱する沢山の酒缶やら食器やらを片付けていた。
時計を確認すれば、もうすっかり夜更け早更けで。
思わずくしゃりと髪を掻き上げつつ、どうしたもんかと深い溜め息を零した、そのとき。
「はっぴーにゅーいやー」
「うわぁあ…!びっくりした――」
背中から首に巻き付くように抱きついてきた男に一瞬飛び上がるが、同じゼミの友人だと気付きほっと胸を撫で下ろす。
それも束の間、
「おいテメッェ!」
「いってぇええええ!!」
ドン!と鈍い衝撃が室内に響いたかと思うと、先刻背後に居た筈の友人が床に寝転んでいて。
「うわ……」
思わず隻手で口許を覆い声を洩らしていた私は、振り返って友人を蹴飛ばした張本人と対面する。
「ちょっと、怪我とかしたらどうすんの」
「知らねーよ。今のはアイツが悪いだろ」
「そう……かもしんないけどさ、」
改めて床に伏す男に視線を戻せば、何事も無く寝息をたてている様で安堵した。
そんな此方の様子をじっと目視していたらしい彼は、「外行こうぜ」なんて言い出すから私は目を丸くした。
* * *
「外ってこういうこと……」
「毛布」
「あ、ありがと」
予め用意してあった外履きに足を通してやって来たのは、所謂バルコニーで。
満天の星空を思わず息も殺して見つめていれば、隣に現れた彼が持ってきてくれた毛布に二人で包(くる)まった。
「ビールも持ってきた」
「え、此処で飲むの?寒くない?」
「だってよー」
少しだけ積った雪を素手でさっと払い、早々と椅子に腰掛けた男に倣って私も腰を下ろした。
長いとも言えない毛布の中で身を寄せ合っていれば、プルタブに指を引っ掛けた彼が徐に言葉を落としていく。
「二人っきり、ってのが良いんじゃん」
「……うん。そだね」
「だろ?あいつ等押し掛けてくるとかホント想定外だしよー」
バルコニーで君と一緒に
二人で飲み干した一缶のビールが、案外一番美味しく感じたりした