※流血表現注意
《君にだって、分かっていた筈だろう?》
幾度となく問われた台詞だった。
幾度となく浴びせられた言葉だった。
分かっていた。分かっていたんだ。
私がどう行動するかで全ては決まる。
暗黙の内に敷かれたレールさながらの未来。
真直ぐに伸びた階段。螺旋では無くストレートの其れ。
分かっていた。それを進み終えてしまえば、自らを呑むものは闇に染まる。
私は一生、《私》を取り戻すことが出来ない。
「―――…待て、早まるな」
「別に、そういうつもりは無いわ」
「お前に従う意図は無くても、結果として付き従うことになるだろう」
唇を噛んで佇む背後の人の気配は、消えることなく私に畳み掛ける。
闇夜に浮かぶは今宵の月。満月の如く丸みを帯びたそれは金色と紅を混ぜたような光で辺りを染めてゆく。
纏め上げた黒髪が一束のみハラリと降下した瞬間。
それは、彼女が地を蹴り振り返ったことを意味する。
「――――……、なッ」
「貴方は私を買い被りすぎた。違う?」
妖艶に細められた眸が意味するもの。
それを深く考える前に、男の意識は遠のいていく。
他でもない彼女によって引き抜かれた刃は惨酷な色を帯びて周囲を染めるのだ、紅く。
「最初から嵌められていたのよ」
他でもない男から流れ出る血。
彼女の台詞を反芻するものの、既に急所を突かれた男が辿る道は一つしか無い。
「………貴方じゃなければ、良かったのに」
翌日、近所の住人によって見目麗しい男女の遺体が発見されたと云う。
彼女が生まれながらの命に背いたと知るものは、その師を措いて他に無し。
既知の思いと背馳の洗礼
出逢わなければ背こうとも思わなかった