"はあ?なんでそうなるんだよ"
「あたしの所為にするわけ!?」
"違うだろ。つーか……はぁ、もういいわ"
無情にも切られてしまった通話。
電話口から耳に入るのは絶え間なく続く機械の音だけだった。
「なによ……もう」
最近特に多くなったアイツとの喧嘩。
声を聞いたり顔を合わせたりすると腹が立って仕方がないのに、一人になれば虚しさに押し潰されそうになる。
クッションを抱えて顔を埋め、深く息を吐き出してみても。
ピンと張り詰めた神経の糸を緩めてしまえば、それと同時に押し寄せるのは後悔の波だった。
その渦に呑み込まれそうになって、相手に伝わらない思いが嫌で、涙腺が緩む。
付き合った当初は、こんなこと無かったのに。
沢山の時間を一緒に越えていく中で、失ってしまったことのほうが多い気がして。
「…、……もうやだあ」
ぽたり、滲みになっていく滴は素直なあたしの結晶だ。
強がりを並べることでしかアイツと向き合えないのは浅はかなあたし。
テーブルの上に並べられた沢山の料理が、行き場をなくして色褪せて見える。
今日くらいは、喧嘩なしに笑い合いたかったのに。
もう駄目なのかな、なんて。
希望なんて無いくせに、分かり切った自問で足掻くことほど滑稽なことって、無い。
* * *
「……ん、」
ひんやりとした空気に肌を刺され、薄く瞳を開いていく。
寝ちゃってたみたい。
ソファーで横にしていた身体をゆっくりと上げようとすれば、数時間前には感じることのなかった温もりに目を見開いた。
薄暗い部屋でも、直ぐに分かる。
「んで…、」
「……起きたんか。はよ」
「なんで、いるの……?」
もう駄目だと思ったのに。
だって昼間、電話切ったじゃん。もういいって言ったじゃん。
あたしが頭を上げていたのはソファーの座面ではなく、彼の膝だったらしい。
悠々と座る男を呆然と見上げていれば、「ああ」と納得したらしい彼は言葉を落としていく。
「あれ以上話してたら仕事、定時に上がれなそうだったから」
「だって、もういいって言った」
「帰ってから話そうと思ったんだよ。お前のことだから、どうせ早合点の勘違いだろ」
呆れたようにそう口にする彼に、むっとしたけれどここは我慢。
ここであたしが強く言えば、また何時ものようになってしまう。
「……最初から来てくれる予定、だったの?」
「は?なんだよそれ」
きょとんとしてそう零す男に、今度こそ腹が立ってくる。
なによ、あたしが下手に出ればいい気になって…!
思い切り眉尻を吊り上げて口を開きかければ、少しの差で先に言葉を音にしたのは彼のほうだった。
そして、
「クリスマスは毎年、お前が何かつくってくれるじゃん。俺もプレゼント買ってきたし」
その言葉にあたしは心底驚いた。
毎年、あたしはクリスマスを楽しみにしていて。
それを、彼は気付いてくれて。
だって喧嘩ばかりだったから、そんなこと考えてもくれないと思ったから。
「……、も」
「あ、なに?」
「もう駄目かと……思った、」
止めどなく流れ出る涙が頬を濡らした。
珍し過ぎる。こいつの前でなんて、もう一生泣いてやらないと思っていたから。
そんなあたしの様子を見て、ぎょっとしたらしい彼は目を見張ってうろたえ始める。
「え、は!?なに……なんで泣いてんの、」
「あんたの、所為、じゃん…」
「、俺!?」
クリスマスの夜に
この日を境に、すれ違う心が寄り添いますように