「アメリカンショートヘア……ベンガルも可愛いけどペルシャも捨てがたいし」
「真っ先にどこ行くのかと思ったらペットショップかよ」
「犬だったらポメラニアンとかパピヨンとか……、やっぱりプードルも可愛い~」
「はーん、独り身の寂しさにペットを巻き添えにするつもりか」
「…………」
「…………」
ガラス張りのケージに添えていた自らの指にじっと視線を合わせたまま数秒か、はたまた数十秒か。
待ったところでウザったい奴が居なくなる筈もなく、くるりと向きを変えたあたしは片方の眉尻を上げて男を見上げた。
「………休みの日までアンタにあたしの時間をやった覚えは無いわよ」
「それは俺の台詞。独身女の寂しい買い物に付き合ってやってるんだから有り難いと思え」
「ストーカーで訴えるぞナルシスト!」
「ハッ」
こいつ…!
あたしの言葉を鼻で笑った男は徐に視線を落とすと、自分の手にある袋の中を無駄に長い指で示してこう洩らす。
「鍋」
「それがどうしたのよ」
「お一人様専用」
「……それがどうしたのよ…!」
単語(禁句)でじわじわと攻撃を仕掛けてくる男の性悪さと言ったら!
ギン!と滾らせた瞳で奴を睨み上げるあたしだったけれど、悔しいことに男のほうが一枚も二枚も上手だった訳で。
「だーから俺が貰ってやるって言ってるだろ」
「なななっ……!て、て言うかその態度が気に食わないのよ!」
「あっれー?」
そこでゆるりと瞳を面白げに細めた男は、満面の笑みで此方の顔を覗き込むと。
「貰ってやるって言ったのは鍋のことだけど?」
「(………下衆野郎が…!)」
「まあどうしてもって言うならオマエのことも貰ってやっても――」
「ふっざけんなクソ男め!!!!」
それは鮮やかなアッパーが男の顎下にクリーンヒットした、とある日曜日の昼下がり。
嫌よ嫌よも好きのうち
ゴールも間近なのに中々素直になれなくて